<第2部:第12章 女の子たちのグループ交際反省会(6):会長のペアチケット> [片いなか・ハイスクール]
「片いなか・ハイスクール」連載第354回
<第2部:第12章 女の子たちのグループ交際反省会(6):会長のペアチケット>
まもなく夏休みも終わろうという頃、ハウルは片いなか映画館に現れた。
「うおっ!ハウルじゃないか!な、なな、何しにきたんだ?!」
「こんちゃ~支配人。何で私を見るとそんなに慌てるの?」
「さ、さあ・・。過去の自分を振り返ってみれば?」
「何のことかしら。すばらしい思い出しか浮かんでこないわ。それより9月から何上映するの?夏休みはお子様映画は充実してたけど、他のはダメねえ。話題作とか入ってこないのかしら」
「夏の有名作品は10月になったら安く入手できるから、それまで待ちな。3本立てで上映するつもりだからお得だよ」
「そんなに待つの?見たい人はショッピングタウンとかで見ちゃうんじゃない?10月じゃビデオ屋にも並んでんじゃないかなぁ」
「レンタルは12月からだからウチの方が早い。大丈夫。ふっふっふ」
「相変わらず際どい商売してるわね。それで9月は何やるの?」
「かっぱさん原作の有名なファンタジーアニメが入るよ。アクション映画の『B-TEAM』も。何と組み合わせようかなあ」
「見る人の趣味とか合うように組み合わせてよね。幼児向けの『働く自動車』とホラーの組み合わせなんて、子供が泣いちゃって凄かったんでしょ?」
「幼児向けので退屈した付き添いの大人も楽しめるように配慮したんだがなあ~」
そこにバイト学生が入ってきた。
「シアターの掃除終わったぁがよ。お客入れてぇもいいずら」
「おお、ご苦労さん。そこの飲み物もっていって休憩したまえ。受付、シアター開放ー」
はーい、と入り口のところの受付嬢が返事をし、鎖を外すと、通路のところで待っていたお客さん何人かが入っていった。
シアターの掃除をしていたバイト学生は、ペットボトルをラッパ飲みすると、ハウルに目をとめた。
「や、1年のハウル君じゃねぇか?」
言われてバイト学生を見たが、ハウルは誰だかぴんとこなかったようだ。
「誰?あなた」
「分校の生徒会長らぁよ」
「生徒会長?ああー、リーダーや裕美子のところの親玉かあ。こんちわ。何で私を知ってるの?どっかで会ったっけ」
「君ぁ、中学ん時から有名だけぇよぉ、知らねえ方が少ねえろうよ」
「なにそれ。ここの支配人といい、やぁねえ。大人しく町も歩けないわ」
「いつも大人しくしてりゃ有名にならずに済んでんだろうに。そういや生徒会長、映画誘えたのかい?」
支配人に言われた生徒会長、顔に斜線を入れて前屈みに壁にもたれかけた。
「なになに、何の話?」
興味つつにハウルが首を突っ込む。生徒会長の態度に、これは良くない方に転んだと思った支配人、
「ああ、いいんだ別に。また今度ゆっくり聞こうな」
とその場を流そうとしたが、壁際のいくらも隙間ないところで顔を下に向けている生徒会長を、ハウルがさらに下から見上げて覗き込み、
「言ってしまった方がすっきりするってもんよ。話してみなさい?」
とさらに興味つつに聞いてきた。
生徒会長は表情を変えぬまま静かに答えた。
「あの子、もう彼氏がいるんだっちゅうよ。それに片いなかまで来るぅは遠いしちゅうて、断られたがよ。へははは・・・」
ははぁと大体事情を飲み込んだハウル、生徒会長の肩をぽんぽんと叩いた。
「そっかー。青春だねえ。もっと都会の映画館だったら来てくれたのかなあ。でもえらいよアンタ、ちゃんと相手に思いを伝えてさ。相手にあなたの気持ちは伝わったろうし、それで振り向いてもらえないことも判れば新しい出会いに早く移れるってものよ。私の友達にも見習わせたいわ」
「はぁ~、俺ぁ、しばらく女の人と話する気になんねぇよ・・・。あ、君は別」
「あらあ、私に興味があるってことかしら?」
「君ぁ女性ちゅうにはかなり特殊だけぇよ。正体知っちゅうだけに。俺に君ぁ扱えんよ」
「ど、どういうことだコラ!」
向こうで支配人が腹を抱えて笑っている。ハウルさん腹が立った。
「んで?!!何の映画に誘ったの?」
生徒会長は懐から例の券を取り出して渡した。
「そろそろプログラム決まるんじゃぁねぇの?9月の土日の第2回上映時間ちゅう指定だけぇよぅ」
手にした安っぽい券を両手で広げてハウルは叫んだ。
「これ、ペアペアチケットじゃん!」
向こうから支配人が言った。
「残ってた最後の1セットをあげたんだ」
「知っちゅうのかえ?この券」
「まぁ・・これ作るのに少し絡んでるんで・・・。それじゃ私がペアになってあげましょうか?一緒に見に行ってもいいわよ」
びっくりして生徒会長が顔を上げた。
「いや!いい!いい!そ、それぁ君にあげよぅ!君、好きな人と見に行きぃや!」
「どうして?恋人でなくても男女ペアならこの券で映画見れるよ?」
「君ぁ凄ぅ飲み食いするっちゅうらしいし、たぶん奢らせるずら。ここのバケツポップコーンでさえ2つは確実に食うちゅうの支配人に聞いちゅうし、俺にぁ相手無理・・んにゃぁ、身分不相応でや」
「うがーっ!なんつう噂流しとるんだコラ!!支配人!!」
ハウルさんますます腹が立った。
「いいよ、私が有効に使うから!もらっとくよ!あとのペアペアの片割れは?」
「ああ、もう1枚のペアチケットは他の人にあげちまった」
そう言ったところでちょうどシアターの上映が始まろうとした。
「あ、扉とか閉めに行かな。ほんなわけぇだから、君使っちゅうてや」
生徒会長は足早に仕事に戻っていった。
支配人が面白そうにして聞いた。
「それで見に来るのかい?」
ハウルはチケットをじーっと見た。
「カップル一組しか来れないんじゃあな。私らでは使えないか・・」
次回「第2部:第12章 女の子たちのグループ交際反省会(7):明日の作戦」へ続く!
前回のお話「第2部:第12章 女の子たちのグループ交際反省会(5):ペアペアチケット」
対応する第1部のお話「第1部:第16章 改めてカップルで(1):遊んでくれなかったなー?」
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『働く自動車』とホラーの組み合わせとはひどい映画館ですね。しかしハウルちゃんはここで何をやらかしたんでしょうか(ちなみに詳細は考えていません)。
かっぱさん原作のファンタジーアニメとは、今は閉鎖してしまったso-netブログ小説仲間のかっぱさんが書いていた小説「おねがい!勇者さま~DEAR MY HEROINE~」のこと。かっぱさんは自らイラストも描いていて、第1部の本章の挿絵には映画館の看板の中にかっぱさんのイラストをお借りして埋め込んだものを用意しました。
B-TEAMはそれこそ特攻野郎Aチームのパクリですね。挿絵の中にもB-TEAMの看板がありますが、ハンニバルもどき(葉巻を大量にくわえている)・フェイスもどき&コングもどきが描かれ、ブラジャーが絡みついたミサイルが飛んでいます。リメイク版でないAチームをご存知ならこの洒落がわかるんじゃないかと。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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<第2部:第12章 女の子たちのグループ交際反省会(6):会長のペアチケット>
まもなく夏休みも終わろうという頃、ハウルは片いなか映画館に現れた。
「うおっ!ハウルじゃないか!な、なな、何しにきたんだ?!」
「こんちゃ~支配人。何で私を見るとそんなに慌てるの?」
「さ、さあ・・。過去の自分を振り返ってみれば?」
「何のことかしら。すばらしい思い出しか浮かんでこないわ。それより9月から何上映するの?夏休みはお子様映画は充実してたけど、他のはダメねえ。話題作とか入ってこないのかしら」
「夏の有名作品は10月になったら安く入手できるから、それまで待ちな。3本立てで上映するつもりだからお得だよ」
「そんなに待つの?見たい人はショッピングタウンとかで見ちゃうんじゃない?10月じゃビデオ屋にも並んでんじゃないかなぁ」
「レンタルは12月からだからウチの方が早い。大丈夫。ふっふっふ」
「相変わらず際どい商売してるわね。それで9月は何やるの?」
「かっぱさん原作の有名なファンタジーアニメが入るよ。アクション映画の『B-TEAM』も。何と組み合わせようかなあ」
「見る人の趣味とか合うように組み合わせてよね。幼児向けの『働く自動車』とホラーの組み合わせなんて、子供が泣いちゃって凄かったんでしょ?」
「幼児向けので退屈した付き添いの大人も楽しめるように配慮したんだがなあ~」
そこにバイト学生が入ってきた。
「シアターの掃除終わったぁがよ。お客入れてぇもいいずら」
「おお、ご苦労さん。そこの飲み物もっていって休憩したまえ。受付、シアター開放ー」
はーい、と入り口のところの受付嬢が返事をし、鎖を外すと、通路のところで待っていたお客さん何人かが入っていった。
シアターの掃除をしていたバイト学生は、ペットボトルをラッパ飲みすると、ハウルに目をとめた。
「や、1年のハウル君じゃねぇか?」
言われてバイト学生を見たが、ハウルは誰だかぴんとこなかったようだ。
「誰?あなた」
「分校の生徒会長らぁよ」
「生徒会長?ああー、リーダーや裕美子のところの親玉かあ。こんちわ。何で私を知ってるの?どっかで会ったっけ」
「君ぁ、中学ん時から有名だけぇよぉ、知らねえ方が少ねえろうよ」
「なにそれ。ここの支配人といい、やぁねえ。大人しく町も歩けないわ」
「いつも大人しくしてりゃ有名にならずに済んでんだろうに。そういや生徒会長、映画誘えたのかい?」
支配人に言われた生徒会長、顔に斜線を入れて前屈みに壁にもたれかけた。
「なになに、何の話?」
興味つつにハウルが首を突っ込む。生徒会長の態度に、これは良くない方に転んだと思った支配人、
「ああ、いいんだ別に。また今度ゆっくり聞こうな」
とその場を流そうとしたが、壁際のいくらも隙間ないところで顔を下に向けている生徒会長を、ハウルがさらに下から見上げて覗き込み、
「言ってしまった方がすっきりするってもんよ。話してみなさい?」
とさらに興味つつに聞いてきた。
生徒会長は表情を変えぬまま静かに答えた。
「あの子、もう彼氏がいるんだっちゅうよ。それに片いなかまで来るぅは遠いしちゅうて、断られたがよ。へははは・・・」
ははぁと大体事情を飲み込んだハウル、生徒会長の肩をぽんぽんと叩いた。
「そっかー。青春だねえ。もっと都会の映画館だったら来てくれたのかなあ。でもえらいよアンタ、ちゃんと相手に思いを伝えてさ。相手にあなたの気持ちは伝わったろうし、それで振り向いてもらえないことも判れば新しい出会いに早く移れるってものよ。私の友達にも見習わせたいわ」
「はぁ~、俺ぁ、しばらく女の人と話する気になんねぇよ・・・。あ、君は別」
「あらあ、私に興味があるってことかしら?」
「君ぁ女性ちゅうにはかなり特殊だけぇよ。正体知っちゅうだけに。俺に君ぁ扱えんよ」
「ど、どういうことだコラ!」
向こうで支配人が腹を抱えて笑っている。ハウルさん腹が立った。
「んで?!!何の映画に誘ったの?」
生徒会長は懐から例の券を取り出して渡した。
「そろそろプログラム決まるんじゃぁねぇの?9月の土日の第2回上映時間ちゅう指定だけぇよぅ」
手にした安っぽい券を両手で広げてハウルは叫んだ。
「これ、ペアペアチケットじゃん!」
向こうから支配人が言った。
「残ってた最後の1セットをあげたんだ」
「知っちゅうのかえ?この券」
「まぁ・・これ作るのに少し絡んでるんで・・・。それじゃ私がペアになってあげましょうか?一緒に見に行ってもいいわよ」
びっくりして生徒会長が顔を上げた。
「いや!いい!いい!そ、それぁ君にあげよぅ!君、好きな人と見に行きぃや!」
「どうして?恋人でなくても男女ペアならこの券で映画見れるよ?」
「君ぁ凄ぅ飲み食いするっちゅうらしいし、たぶん奢らせるずら。ここのバケツポップコーンでさえ2つは確実に食うちゅうの支配人に聞いちゅうし、俺にぁ相手無理・・んにゃぁ、身分不相応でや」
「うがーっ!なんつう噂流しとるんだコラ!!支配人!!」
ハウルさんますます腹が立った。
「いいよ、私が有効に使うから!もらっとくよ!あとのペアペアの片割れは?」
「ああ、もう1枚のペアチケットは他の人にあげちまった」
そう言ったところでちょうどシアターの上映が始まろうとした。
「あ、扉とか閉めに行かな。ほんなわけぇだから、君使っちゅうてや」
生徒会長は足早に仕事に戻っていった。
支配人が面白そうにして聞いた。
「それで見に来るのかい?」
ハウルはチケットをじーっと見た。
「カップル一組しか来れないんじゃあな。私らでは使えないか・・」
次回「第2部:第12章 女の子たちのグループ交際反省会(7):明日の作戦」へ続く!
前回のお話「第2部:第12章 女の子たちのグループ交際反省会(5):ペアペアチケット」
対応する第1部のお話「第1部:第16章 改めてカップルで(1):遊んでくれなかったなー?」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
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『働く自動車』とホラーの組み合わせとはひどい映画館ですね。しかしハウルちゃんはここで何をやらかしたんでしょうか(ちなみに詳細は考えていません)。
かっぱさん原作のファンタジーアニメとは、今は閉鎖してしまったso-netブログ小説仲間のかっぱさんが書いていた小説「おねがい!勇者さま~DEAR MY HEROINE~」のこと。かっぱさんは自らイラストも描いていて、第1部の本章の挿絵には映画館の看板の中にかっぱさんのイラストをお借りして埋め込んだものを用意しました。
B-TEAMはそれこそ特攻野郎Aチームのパクリですね。挿絵の中にもB-TEAMの看板がありますが、ハンニバルもどき(葉巻を大量にくわえている)・フェイスもどき&コングもどきが描かれ、ブラジャーが絡みついたミサイルが飛んでいます。リメイク版でないAチームをご存知ならこの洒落がわかるんじゃないかと。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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