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<第2部:第13章 アロン君の誕生日(3):裕美子のプレゼント> [片いなか・ハイスクール]

「片いなか・ハイスクール」連載第361回
<第2部:第13章 アロン君の誕生日(3):裕美子のプレゼント>


9月22日。今月の安全巡視点検をアロン君とわたしはこの日の早朝やっていた。

安全巡視は本来、安全衛生委員のアロン君が一人で行うものだけど、ちゃんとチェックしないで点検カードに丸して提出しているのを見てしまったので、わたしは監視も兼ねて一緒に点検作業をやっているのだった。

というのは半分は事実だけど、後の半分はアロン君と公式に一緒にいられる口実としてだった。

こうして着々とアロン君の側にいる機会を作っていることを知ったら、アロン君どんな顔するかしら。
この監視も兼ねた点検立ち会いはわたしではなくて、生徒会委員(正)のリーダーでもいいんだけど、リーダーはこの日のことをよく忘れちゃってるし、わたしもわざとフォローしないので、まんまとわたしはアロン君と二人きりになっている状況を謳歌している。
カーラさんに知られたら大騒ぎどころじゃないかも?
うん、わかってる。わかってるんだけど・・わたしはアロン君の彼女になるわけにはいかないから、お仕事で横にいさせてもらうんだ。これならアロン君の意思には関係なく、好きだろうが嫌いだろうが、アロン君もわたしも一緒にならざる得ないんだから。
そしてアロン君が懇意にする人が現れたときは、アロン君を応援する。影から支える。でもその人がカーラさんでないことをなんとなく望んでいる自分がいるの。カーラさんは大切なお友だちなのに・・・。

幸いな事に、アロン君はカーラさんを気にしつつも、積極的に彼女にしようという様子は伺えない。カーラさんも、彼女にしてという素振りを見せない。

「消火器安全装置OKと。ところで小泉、今日何の日か知ってる?」

意識が他に行っていたところでわたしは急に名指しされたので、言われたことに頭が追い付くのに少し時間がかかった。

「え?な、なんでしたっけ?」
「俺の誕生日だったりして」
「あ、そうなんですか?」

わ、いいこと聞いちゃった。
9月22日かぁ。覚えとこ。わたしより一足先に16歳になったんですね。

「おめでとうございます。16歳ですね、お兄さん」
「小泉まだだっけ。前にどっかで聞いたよな。えっと冬だったような・・」
「12月ですよ。それで、もしかしてプレゼントの催促ですか?」
「いやあ、別に意味なんてないけどさ。このカレンダー見たら思い出したから言ってみただけ」

アロン君はホワイトボードの横にあるカレンダーをぽんぽんとたたいた。
そのカレンダーは文化委員のカーラさんが初仕事でシャノンさんと作ったもので、シャノンさんが街中で撮影した猫の写真を使ったものだ。9月は塀からずり落ちそうな猫の写真だった。なんでもシャノンさんはアンザック君に執拗に被写体の猫を追いかけさせて恐怖心を植えつけさせたそうで、写真の当日、猫はアンザック君を見かけただけでパニックになって、さしもの猫も足を滑らせたらしい。
もしかするとこの作成秘話がリーダーの頭に残ってて、かの海賊事件の時アンザック君をおとり役に抜擢したのかもしれない。

そしたら今日はカーラさんと予定組んでるのかな?

「じゃあカーラさんとかから何かしてもらうとか?」
「カーラ?さあ、カーラ知らないんじゃない?」

『あら、カーラさんに教えてないの?・・というか、こういうことはカーラさんの方から確かめておくべきじゃないのかしら』

「ふうん・・・」

『何してるんですかカーラさん、せっかく公認のアロン君のお相手なのに。・・・何かしてあげたいけど、わたしからあからさまに祝ってあげるようなことは立場的にできないし・・・。そうだ』

わたしは思いつくと、

「アロン君、メガネ持っててくれます?」

と言って、メガネを外して預けた。そして俯いて役作りに入った。

~~ 一方のアロン ~~

『え?あ、メガネしてない小泉だ。夏休み以来・・、あ、俯いちゃった。顔よく見えないや。
小泉、メガネ取ると結構整った顔してんだよな・・このでっかいメガネで相当損してるんじゃないか?コンタクトにしたら誰か口説きに来るやついそうだよな』

そう思いながら、手にしていた裕美子のメガネを試しに覗いて教室を見渡してみた。とたん目がくらくらした。

「げっ。ひどい視力だな。まったく世の中が見えない」

その時、急に裕美子がパッと顔を上げて、はっきりとした大きな声をあげた。

「お誕生日おめでとう、アロン君!」

そこにはメガネ取った顔に、普段見たこともない明るい笑みを浮かべてアロンを見上げている裕美子が、いや夏の幼なじみの顔があった。思わずアロンはドキーンとしてしまった。

『ななな、何だあ??え?こ、この声の調子は、な、夏の幼なじみ?!』

~~ 再び裕美子視点に戻る ~~

わたしは俯いて目を瞑り、夏にやったアロン君の許嫁を連想した。小さい頃からずっと好きで、暫く会えなかった間もずっと心こがれて、再開する日を心待ちにしていた人。勿論二人は両想い。そしてやっと再開果たせて、今日アロン君の誕生日を迎えた。

どんな気持ちだろう?特に渡すような物は用意してない。そんな中でどうやってお誕生日を祝ってあげるだろう。
わたしなら・・、そうね・・・新たな契りを交わす、かな。

どうするか決したわたしは、ぱっと目を開けて笑顔を作り、アロン君を見上げた。

「お誕生日おめでとう、アロン君!」

やっぱり手を取って告げたい。許嫁さんは明るい人だから、とびっきりの笑顔と陽気さで言うに違いない。
わたしはアロン君の手を取って、さらに弾むように続けた。

「お誕生日プレゼントはもうちょっとお預けよ?二十歳になったら『ユカリ』を、あ・げ・る(ハート)」

わたしはお日さまのような笑顔をアロン君に注いだ。

~~ またまたアロン ~~

大きな瞳がこっちを見詰めていた。
ちょっと首をかしげたそのポーズは、いつもよく見る小泉と同じだった。だけどメガネを取って普段見せない素顔に、それにも増して普段まず見ることのない飛び切りの笑顔。さらに意味ありげなセリフ。そして自分の左手を包み込んでいる柔らかくて暖かい少し小さな手。
この雰囲気、夏の幼なじみ『ユカリ』だ!
許嫁という設定の架空の人物。いないはずの人が今、目の前にいる。
いや、あの時のユカリとは何か違う。
なんだろう。
そうだ、髪。
『ユカリ』はストレートヘアだった。でも今目の前にいるのはくるくるとカールした独特のくせっ毛の人なのだ。だからユカリというよりはやはり裕美子に言われたようだった。
この人は『ユカリ』じゃない。やっぱり小泉だ。だけどこの物腰、笑顔、伝ってくる俺を慕う気持ち。
その人がアロンの手を握ってにっこりと見つめている。

『こ、これ、小泉?』

見つめられてアロンはかあっと顔が熱くなり、胸の中では鼓動が急速に早くなりだした。

~~ 再再、裕美子視点 ~~

わたしは笑顔を作ってアロン君を暫くの間じっと見詰めていた。笑顔を作ってとは言ったけど、アロン君のことを想うと作らなくても自然と顔が綻んでくる。ちゃんと微笑んでいるだろうか。メガネかけてないからアロン君の表情ははっきりとは分からない。でも驚いているらしいことは分かった。
わたしは役に成りきって思わず握ってしまったアロン君の左手を放した。

わたし、何気にアロン君の手とか平気に触ってるよね。夏も水着姿で抱き付いてるし。触れるべき時はあんまり抵抗ないのよね、変なことに。

そしてぷらんと下ろしていたアロン君の右手が持っているわたしのメガネを取り戻した。メガネを装着すると 、落ち着いた、ある意味テンションの落ちたいつもの状態に戻った。

「ユカリさんならこう言う感じかなあと思って」

メガネ外してた時より相当低い声だったと思う。
メガネ通してピントの合った状態で見たアロン君は、やっぱり驚いた顔をしていた。

「お前、何者?それ演技なの?」
「演技に決まってるじゃないですか。10分も続けてられません、こんなの」
「演技?演技かぁ・・・」
「アロン君・・、顔赤いです」
「うえ?!」
「もしかして、うれしかったりして?」
「んわわわ!」

アロン君は顔をごしごしした。

『アロン君、明るくて元気な娘が好みって言ってたから、本当に『ユカリ』みたいなこういう娘が好きなんだな。でも、明るく振舞っただけで、見た目はメガネ取っただけのわたしなんだけど、それでもうれしかったのかな・・』

「か、架空のユカリが目の前に本当にいるってのと、それを小泉がやってるっていうギャップがすごい意外すぎて・・と、戸惑っちまった」
「髪はくせっ毛のままでしたけど、それでもユカリさんに見えましたか?」
「うん・・。いや、小泉っぽいユカリ?ユカリっぽい小泉?」
「そうですか。残念でしたね、100%ユカリじゃなくて」
「そ、そうかな・・。それにしてもすごいセリフだったよね。こっちが恥ずかしくなってきちゃったけど。・・それ、なんか意味あるの?」
「え?い、意味って?だ、だって、ユカリさんて許嫁でしょ?だ、だから、文字通りですよ?」
「ふ、ふ~ん。誰のセリフだって?」
「誰のって、だから・・」

わたしは急にかあっと顔が熱くなった。

『ま、まさかわたしのセリフだとか、思われた?!そ、それで意味あるなんて言ったら、ユカリじゃなくてわたしをあげるってことに・・』

「ユ、ユ、ユ、ユカリさんでしょ。他に誰がいるんですか」
「許嫁だから結婚ってこと?」
「そ、そうですよ」
「ふーん。・・でも結婚なら18歳でもできるんじゃん?」
「え?あ、そ、そうでしたね・・。なんか、わたし成人するまでしちゃいけないような気がしてました・・」

『びっくりした。なんで二十歳まで待たなきゃなのかってこと聞きたかったんですね』

あたふたしながらわたしは机の上に置いてあった安全巡視のチェックボードを拾い上げた。

「ユカリの勢いだったら18歳で嫁いじゃいそうだけど、小泉なら二十歳まで待ってって言うんだろうな」
「あう。す、すみません。身の丈に合わないことしてるんで、矛盾は許してください」

チェックボードの影からちらりと上目遣いで見上げると、アロン君はまだなんとなく色づいた顔でずっとこっちを見ていることに気付いて、思わずチェックボードで顔を覆ってしまった。

『う・・、アロン君がわたしを見てくれてるのはすごくうれしいんだけど、そんなちょっと赤くなって、こんな話題を楽しそうにするのは、か、かわいくて反則です・・』

「18歳で、い、言い直したりしませんからね。も、もうユカリさんはやりませんから」
「あ、あはは。悪かったね、またやらせちゃって」

アロン君の寄せる笑顔に、わたしもボードから顔を少し覗かせて、ふふっと笑った。アロン君の反応から、ちゃんとわたしは笑えたみたいだ。

「ま、この『ユカリ』さんがわたしからの誕生日プレゼントです」
「面白かった。ありがとう」

その時、ガラリと教室の戸が開いた。そうだ、ここは学校の教室だった。今まであまりにも出来すぎた雰囲気が続いていたので、二人しかいない世界と間違えそうだった。
入ってきたのはいつも早めに登校してくるリーダーだった。リーダーはわたし達を見てキョトンとした。

「あれ?2人ともどうしたんだい?」

でも、わたしが手にしているチェックボードを見てすぐに気が付いた。

「あ!今日安全巡視だっけ、しまったあ!また小泉さんにやらせちゃった」

アロン君はまだほんのりと色付いたほっぺたをしてわたしの顔を見ると、目で笑った。

「今日はそれでよかったかも」


次回「第2部:第13章 アロン君の誕生日(4):カーラのイケイケプレゼント」へ続く!

前回のお話「第2部:第13章 アロン君の誕生日(2):マグカップ粉砕」


対応する第1部のお話「第1部:第17章 アロンの誕生日:カーラのプレゼント」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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第1部のお話はちょうどこの後を引き継ぐような感じで始まっていったのでした。
次回は第1部と同じシーンを裕美子ちゃん視点で追っていきます。


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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