<第2部:第10章 夏のエピソード(8):中庭で夕食です(3)> [片いなか・ハイスクール]
「片いなか・ハイスクール」連載第332回
<第2部:第10章 夏のエピソード(8):中庭で夕食です(3)>
メインディッシュのお肉に合わせるソースを作るアロン君を手伝うため、わたしは一緒にキッチンへやってきた。
「材料は何が必要ですか?」
「えっとね、タマネギとピーマン、パプリカ、トマトを使う」
タマネギは大袋でたっぷり買ってあった。
「どうすればいいですか?」
「微塵切りにする」
「分かりました。いくつくらい?」
「18人いるから、10個くらいかな」
「10個。随分使うんですね。任せて下さい」
タマネギの皮を剥いていると、アロン君も横にやってきてピーマンの種を取るのを始めた。近くにいるアロン君を感じると、少し甘えてみたくなった。
手が届くところに彼がいる。話し掛けたら答えてくれる。一緒に学校のお仕事をすることが多くなったから、こうして一緒にいることにもだんだん違和感がなくなってきた。それにアロン君と何かする時は不思議と気持ちが通じ合う気がする。
・・後は一言、わたしの気持ちを伝えるだけで、わたしのこのもやもやは解消するに違いない。
だけど、彼には決まった人がいるんだ。それに、わたしにはそんなこと言う資格はない。言ったところでその先に進めないのだから。
また虚しさがこみ上げてきた。、
「・・10個もタマネギ刻んだら、泣いちゃうかもしれません。そしたら、慰めてくれますか?」
ひょっとわたしの顔を見たアロン君は、ちょっとして答えた。
「その涙って、慰めたら止まるの?へー。あ、そうだタマネギ15個いるんだった。増やしていいー?」
「意地悪。・・本当に慰めてもらいますよ」
「へへへ。でも本当に目は涙目になっちゃうね。こっちの終わったら俺もやるよ。水中メガネ持ってこようかな」
わたしは皮を剥き終わったところで棚の方に向かった。
「一人で大丈夫ですよ。だって・・」
戸棚から文明の利器を取り出した。
「フードプロセッサーありますから」
「あー、なんだよ。それじゃ泣かねーじゃんか!」
「分かんないですよ。もし泣いたら、慰めてくださいね」
こんなに好きなのに、諦めなければいけないんですもの。思い詰めたら本当に泣いちゃうかもしれないわよ。・・・それだったら、包丁で刻んだ方がよかったかもしれないかなぁ。
機械にかけるにしてもたくさんあるので、何回かに分けてやらなくちゃいけない。まず1回目。ガイーンと機械にタマネギを刻ませ、目が痛くなることもなく微塵切りができた。
「どうすればいいですか?これ」
「このボウルに開けよう」
アロン君はプロセッサーをわたしから受け取った。
「ピーマンも微塵切りにして混ぜるんだけど、これも機械でできる?」
「できますよ。次のから一緒に入れちゃえば?」
「あ、なるほどー。そりゃ楽でいいや」
アロン君はプロセッサーの中の微塵切りのタマネギをボウルに掻き出すと、目を覆った。
「うわー、これだけでも目が痛いぞ」
そして何を思ったのか、空になったフードプロセッサーをわたしの顔の前に突き出した。空とはいえ、中にはタマネギの汁もたっぷり残ってる。ツーンと鼻を突く刺激臭に続き、目も痛くなった。とたんに「くしゅん」とくしゃみまで出てしまった。
「な、何するんですか。目、痛ぁい。涙、出てきた」
「え?ご、ごめん。メガネあるから平気かと思った」
「そんなわけないでしょ。くしゅん」
アロン君は慌ててティッシュを数枚取ると、わたしの涙を拭き取ろうと屈み込んだ。
「ごめん、悪かった、すいません。地元産のタマネギらしいんだけど、なんか普通のよりツンツンしてない?」
顔を上げたら目の前にアロン君の顔のアップがあって、わたしは焦ってしまった。一瞬固まってアロン君の目を見つめてしまい、とたんに目が痛くなって顔を伏せた。アロン君はそれを更に屈んで追っかけてきた。「大丈夫?」と顔にティッシュを近付けた。
わたしは顔を伏せたまま手をその辺に振りかざして、アロン君が持ってたティッシュを受け取った。
とてもじゃないけど、アロン君に拭いてもらうなんてできない。恥ずかしいし、そんなことしていい仲じゃない。
自分で涙を拭き取ると、流しに行って目を洗った。やっと痛いのが収まった。
「もう、ひどいじゃないですか」
「ごめん。そんなに効くとは思わなかったもんで・・」
「これ、後どうするんですか?」
「刻んだピーマンとトマトも一緒に混ぜて、ワインビネガーをたっぷりぶっかけたら完成だよ」
「それだけ?豪快というか、いかにも男の料理ですね」
フードプロセッサーで細かくしたタマネギ、ピーマン、パプリカと、ざく切りのトマトを入れ、ワインビネガーをザブザブになるほど入れて混ぜ合わせ、お肉用のソースが完成した。
「ありがと。助かった」
わたしはまだ少しうるうるする目をハンカチで押さえた。
「な、慰めた方がいい?」
「どういうふうに?」
「さぁ・・どうがいいかね。頭でも撫でようか」
顔が熱くなった。やってって言ったら、きっとやってくれる。
「や、や、やっぱり、いいです。そ、そういうのは、これから会う幼なじみさんにやってあげてください」
「え?おさな・・ああ、あははは・・」
そこに勇夫君とカーラさんもやってきた。
「わりー。やっと動けるくらいになった」
「遅せーよ。もう終わっちまったよ」
「マジ?ずいぶん早いな」
「小泉がフードプロセッサーで微塵切りにしてくれたから、あっという間だった」
「なぁんだ、そんなのあったんだ。じゃあ目が痛くなることもなく済んだのか」
「たくさんタマネギ刻まなきゃっていうから来たんだけど・・。よかったやらないで済んで。あれ、でもユミちゃん、涙拭いてるよ?」
「アロン君にいじめられました」
「え?アロン君に?」
「わああ、そんなつもりじゃなかったんだよ~」
「高くつきますよ」
「何されたの?」
「おーい、できてんなら早く持ってこうぜ。肉すぐ焼けるし。カーラのおかげで今炭火が絶好調だから」
「へえ、カーラの?」
「こう炭をうまい具合に積み上げて、下から一挙に火点けたから、よく焼けた炭が沢山できて、今レソフィックが絶好調理中だ」
「へえ。すごいね。炭扱い慣れてるんだ」
「そ、そんなんじゃないの。たまたまこうやった方がよく火が点きそうって思ってやってみただけで・・・」
「カーラ、勘がいいからね。さすがぁ」
「そ、そんなんじゃないから」
カーラさんやっぱりアウトドア向きなんだな。いいなあ、アロン君達といろいろ合いそうで。
「ほれ急ぐぞ。このボウルのでいいんか?んじゃ持ってくぞー」
次回「第2部:第10章 夏のエピソード(9):中庭で夕食です(4)」へ続く!
前回のお話「第2部:第10章 夏のエピソード(7):中庭で夕食です(2)」
対応する第1部のお話「第1部:第14章 夏のエピソード後編(2):美女の才能」
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このソース、焼いただけのお肉に本当に良く合います。ただし野外で食べるからかもしれません。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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<第2部:第10章 夏のエピソード(8):中庭で夕食です(3)>
メインディッシュのお肉に合わせるソースを作るアロン君を手伝うため、わたしは一緒にキッチンへやってきた。
「材料は何が必要ですか?」
「えっとね、タマネギとピーマン、パプリカ、トマトを使う」
タマネギは大袋でたっぷり買ってあった。
「どうすればいいですか?」
「微塵切りにする」
「分かりました。いくつくらい?」
「18人いるから、10個くらいかな」
「10個。随分使うんですね。任せて下さい」
タマネギの皮を剥いていると、アロン君も横にやってきてピーマンの種を取るのを始めた。近くにいるアロン君を感じると、少し甘えてみたくなった。
手が届くところに彼がいる。話し掛けたら答えてくれる。一緒に学校のお仕事をすることが多くなったから、こうして一緒にいることにもだんだん違和感がなくなってきた。それにアロン君と何かする時は不思議と気持ちが通じ合う気がする。
・・後は一言、わたしの気持ちを伝えるだけで、わたしのこのもやもやは解消するに違いない。
だけど、彼には決まった人がいるんだ。それに、わたしにはそんなこと言う資格はない。言ったところでその先に進めないのだから。
また虚しさがこみ上げてきた。、
「・・10個もタマネギ刻んだら、泣いちゃうかもしれません。そしたら、慰めてくれますか?」
ひょっとわたしの顔を見たアロン君は、ちょっとして答えた。
「その涙って、慰めたら止まるの?へー。あ、そうだタマネギ15個いるんだった。増やしていいー?」
「意地悪。・・本当に慰めてもらいますよ」
「へへへ。でも本当に目は涙目になっちゃうね。こっちの終わったら俺もやるよ。水中メガネ持ってこようかな」
わたしは皮を剥き終わったところで棚の方に向かった。
「一人で大丈夫ですよ。だって・・」
戸棚から文明の利器を取り出した。
「フードプロセッサーありますから」
「あー、なんだよ。それじゃ泣かねーじゃんか!」
「分かんないですよ。もし泣いたら、慰めてくださいね」
こんなに好きなのに、諦めなければいけないんですもの。思い詰めたら本当に泣いちゃうかもしれないわよ。・・・それだったら、包丁で刻んだ方がよかったかもしれないかなぁ。
機械にかけるにしてもたくさんあるので、何回かに分けてやらなくちゃいけない。まず1回目。ガイーンと機械にタマネギを刻ませ、目が痛くなることもなく微塵切りができた。
「どうすればいいですか?これ」
「このボウルに開けよう」
アロン君はプロセッサーをわたしから受け取った。
「ピーマンも微塵切りにして混ぜるんだけど、これも機械でできる?」
「できますよ。次のから一緒に入れちゃえば?」
「あ、なるほどー。そりゃ楽でいいや」
アロン君はプロセッサーの中の微塵切りのタマネギをボウルに掻き出すと、目を覆った。
「うわー、これだけでも目が痛いぞ」
そして何を思ったのか、空になったフードプロセッサーをわたしの顔の前に突き出した。空とはいえ、中にはタマネギの汁もたっぷり残ってる。ツーンと鼻を突く刺激臭に続き、目も痛くなった。とたんに「くしゅん」とくしゃみまで出てしまった。
「な、何するんですか。目、痛ぁい。涙、出てきた」
「え?ご、ごめん。メガネあるから平気かと思った」
「そんなわけないでしょ。くしゅん」
アロン君は慌ててティッシュを数枚取ると、わたしの涙を拭き取ろうと屈み込んだ。
「ごめん、悪かった、すいません。地元産のタマネギらしいんだけど、なんか普通のよりツンツンしてない?」
顔を上げたら目の前にアロン君の顔のアップがあって、わたしは焦ってしまった。一瞬固まってアロン君の目を見つめてしまい、とたんに目が痛くなって顔を伏せた。アロン君はそれを更に屈んで追っかけてきた。「大丈夫?」と顔にティッシュを近付けた。
わたしは顔を伏せたまま手をその辺に振りかざして、アロン君が持ってたティッシュを受け取った。
とてもじゃないけど、アロン君に拭いてもらうなんてできない。恥ずかしいし、そんなことしていい仲じゃない。
自分で涙を拭き取ると、流しに行って目を洗った。やっと痛いのが収まった。
「もう、ひどいじゃないですか」
「ごめん。そんなに効くとは思わなかったもんで・・」
「これ、後どうするんですか?」
「刻んだピーマンとトマトも一緒に混ぜて、ワインビネガーをたっぷりぶっかけたら完成だよ」
「それだけ?豪快というか、いかにも男の料理ですね」
フードプロセッサーで細かくしたタマネギ、ピーマン、パプリカと、ざく切りのトマトを入れ、ワインビネガーをザブザブになるほど入れて混ぜ合わせ、お肉用のソースが完成した。
「ありがと。助かった」
わたしはまだ少しうるうるする目をハンカチで押さえた。
「な、慰めた方がいい?」
「どういうふうに?」
「さぁ・・どうがいいかね。頭でも撫でようか」
顔が熱くなった。やってって言ったら、きっとやってくれる。
「や、や、やっぱり、いいです。そ、そういうのは、これから会う幼なじみさんにやってあげてください」
「え?おさな・・ああ、あははは・・」
そこに勇夫君とカーラさんもやってきた。
「わりー。やっと動けるくらいになった」
「遅せーよ。もう終わっちまったよ」
「マジ?ずいぶん早いな」
「小泉がフードプロセッサーで微塵切りにしてくれたから、あっという間だった」
「なぁんだ、そんなのあったんだ。じゃあ目が痛くなることもなく済んだのか」
「たくさんタマネギ刻まなきゃっていうから来たんだけど・・。よかったやらないで済んで。あれ、でもユミちゃん、涙拭いてるよ?」
「アロン君にいじめられました」
「え?アロン君に?」
「わああ、そんなつもりじゃなかったんだよ~」
「高くつきますよ」
「何されたの?」
「おーい、できてんなら早く持ってこうぜ。肉すぐ焼けるし。カーラのおかげで今炭火が絶好調だから」
「へえ、カーラの?」
「こう炭をうまい具合に積み上げて、下から一挙に火点けたから、よく焼けた炭が沢山できて、今レソフィックが絶好調理中だ」
「へえ。すごいね。炭扱い慣れてるんだ」
「そ、そんなんじゃないの。たまたまこうやった方がよく火が点きそうって思ってやってみただけで・・・」
「カーラ、勘がいいからね。さすがぁ」
「そ、そんなんじゃないから」
カーラさんやっぱりアウトドア向きなんだな。いいなあ、アロン君達といろいろ合いそうで。
「ほれ急ぐぞ。このボウルのでいいんか?んじゃ持ってくぞー」
次回「第2部:第10章 夏のエピソード(9):中庭で夕食です(4)」へ続く!
前回のお話「第2部:第10章 夏のエピソード(7):中庭で夕食です(2)」
対応する第1部のお話「第1部:第14章 夏のエピソード後編(2):美女の才能」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
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このソース、焼いただけのお肉に本当に良く合います。ただし野外で食べるからかもしれません。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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2014-12-14 07:00
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